気温や湿度が高くなってくると、心配なのが食中毒です。
食中毒は、有害な微生物(細菌やウイルス)によって引き起こされる健康被害のことです。
食中毒の原因は大きく分けると次の4つです。
・細菌
・ウイルス
・寄生虫
・自然毒(毒キノコ等)
実は食中毒の患者数は夏よりも冬の方が多いのですが、これは低温・低湿度な環境下を好むノロウイルスによる食中毒が多く発生するためです。
気温・湿度とも上昇する夏は多くの細菌が増殖しやすい環境になるため、特に細菌性の食中毒に注意が必要です。
目次
細菌性食中毒予防の3原則
食中毒を防ぐためには、細菌などを食べ物に「つけない」、食べ物に付着した細菌などを「増やさない」、「やっつける」という3つのことが重要です。なお、ウイルスの場合は、食品中では増えないので、「つけない」、「やっつける」が重要となります。それぞれの原則のポイントを理解し、食中毒を予防しましょう。
原則1・つけない
食中毒を起こす細菌やウイルスは、食材や調理を行う人を介して外から持ち込んでしまうこともあります。この細菌などが手指や調理器具などを介して他の食品を汚染し、食中毒の原因となることがあります。ウイルスの場合は特に感染力が強く、ごくわずかな汚染でも食中毒を引き起こしてしまうので、「つけない」ための対策は確実に行いましょう。
原則2・増やさない
食品に食中毒菌がついてしまっても、食中毒を起こすまでの菌量まで増えなければ、食中毒にはなりません。食品についた細菌は時間の経過とともに増えるので、調理は迅速に行い、速やかに提供しましょう。また、細菌の多くは10度以下では増えにくくなるので、食品を低温で保存することも重要です。
原則3・やっつける
ほとんどの細菌やウイルスは加熱(中心部が75度以上で1分以上、ノロウイルスの汚染の恐れがある場合は85度以上で90秒以上)によって死滅するため、最も効果的な殺菌方法です。しかし、加熱が不十分で病原体が生き残り、食中毒が発生する例も多いので注意しましょう。
夏の食中毒 原因別ランキング
6月~8月を夏として2019年~2023年の5年間の統計データをもとに、患者数について原因別にランキングしました。
厚生労働省 食中毒統計資料(2)過去の食中毒発生状況 をもとに作成
第1位 カンピロバクター・ジェジュニ/コリ【細菌】 1,948人
第2位 サルモネラ属菌【細菌】 1,534人
第3位 ウエルシュ菌【細菌】 899人
第4位 ノロウイルス【ウイルス】 622人
第5位 アニサキス【寄生虫】 437人
冬の食中毒の代表的な原因であるノロウイルスですが、夏でも第4位に入っていることから、夏も油断してはいけないことが分かります。
今回は夏の食中毒の原因上位の細菌と、食中毒予防方法について詳しくご説明します。
カンピロバクター属菌【細菌】、サルモネラ属菌【細菌】
カンピロバクター属菌・サルモネラ属菌はどちらも家畜動物やペットなどの体内に生息している細菌です。食肉全般に付着しています。
症状については、下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔気、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感など、一般的な食中毒の症状です。
多くの患者は1週間ほどで治癒します。死亡例や重篤例はまれですが、乳幼児・高齢者、その他抵抗力の弱い方では重症化する危険性もあり、注意が必要です。また、カンピロバクターは感染した数週間後に、手足の麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」を発症する場合があることが指摘されています。
いずれも熱に弱いため、食中毒の予防方法は次の5点です。
(1)食肉を十分に加熱調理(中心部を75℃以上で1分間以上加熱)することが重要です。具体的には未加熱又は加熱不十分な鶏肉料理を避けることが最も効果的です。
(2)二次汚染防止のために、食肉は他の食品と調理器具や容器を分けて処理や保存を行いましょう。
(3)食肉を取り扱った後は十分に手を洗ってから他の食品を取り扱いましょう。
(4)食肉に触れた調理器具等は使用後洗浄・殺菌を行いましょう。
(5)数は少ないですがペットと触れ合った後の手・指などを介して感染することもあるため、ペットと触れ合った後の手洗いを徹底しましょう。
ウエルシュ菌【細菌】
ウエルシュ菌も細菌ですが前述のカンピロバクター属菌・サルモネラ属菌とは異なる特徴を持ちます。ウエルシュ菌は土や水の中、健康な人や動物の腸内など自然界に幅広く生息している細菌で、特に牛・鶏・魚が保菌していることが多いです。腹痛や下痢などの症状が現れますが、発熱や嘔吐はほとんどみられません。多くの場合、発症後1~2日で回復するとされていますが、基礎疾患のある方や子供、高齢者の方は重症化することがあります。
特徴としては熱に強い芽胞をつくること、酸素の無い環境を好むことがあげられます。酸素が少ない環境で増殖する細菌であるため、カレーやシチュー、煮魚、麺のつけ汁など、大量に調理され、そのまま室温で冷まされた食品が原因で食中毒が発生しています。
ウエルシュ菌は自然界に広く存在しているため、ウエルシュ菌による食材の汚染を防ぐことは難しく、加熱により芽胞を形成したウエルシュ菌を死滅させることも難しいため、“いかに菌の増殖を抑制するか”が重要なポイントとなります。具体的には次の4つのポイントが重要です。
(1)前日調理は避け、加熱調理したものは喫食までの時間をなるべく短くする工夫をしましょう。
(2) 耐熱性のウエルシュ菌は芽胞を形成して生き残り、加熱調理後50℃程度にまで下がると芽胞が発芽を始め、43~45℃になると最もよく増殖するため、20℃から50℃の温度域を速やかに通過させ、10℃以下に冷却することが望まれます。また、冷却できない場合には55℃以上で保管しましょう。これにより菌の増殖を抑制できます。
(3)よくかき混ぜながら調理を行うことで空気との接触を増やすことができ、菌の増殖を抑制できます。
(4)食材を小分けに保管することで食材に酸素がいきわたりやすくなり、菌の増殖を抑制できます。中心部まで素早く冷却することもできます。