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1.もしもし?大変です、トイレからすごい刺激臭がしますっ!
今から10数年前のある朝、清掃会社のマネージャーをやっていた私の携帯電話が鳴りました。とある銀行の支店で日常清掃をお願いしていたパートのAさんからでした。とても慌てた様子で「もしもし、マネージャー?大変です、トイレからすごい刺激臭がします!」。とりあえずすぐにトイレの換気をさせました。大事には至らなかったのですが、いったい何があったのか詳しく聞いてみると、その日Aさんは男子小便器を「酸性トイレクリーナー」を使って清掃していました。ところがなかなか取れないシミ汚れがあり、漂白剤を使ったら汚れが落ちるのではと思い、「塩素系漂白剤」をドボドボと入れたそうです。すぐにすごい刺激臭がして、びっくりして電話をかけてきたとのことでした。
2.まぜるな危険の例
「まぜるな危険」は、ある2つの種類の薬剤を混ぜると危険な塩素ガスが発生して、人体に悪影響を及ぼす可能性があることを注意喚起している言葉です。代表的なものが上にも記した、塩素系漂白剤と酸性洗浄剤をまぜてしまったケースです。他にはどんなものがあるでしょうか。一例を表にまとめました。
まぜるもの1 | まぜるもの2 | 結果 |
---|---|---|
カビ取り剤 (塩素系) | トイレ用洗剤(酸性系) | ✖ |
排水口クリーナー (塩素系) | クエン酸・お酢 | ✖ |
キッチン用漂白剤 (塩素系) | レモン味キャンディー | ✖ |
最近、クエン酸やお酢を使って清掃をされる方も多いと思います。まぜるな危険の表示が無かったとしても、酸性であれば塩素系薬剤とまざった場合に塩素ガスが発生する可能性があるので注意が必要です。また同じ理由でレモン果汁入りキャンディーをなめながら塩素系漂白剤を使用することも避けた方がよいでしょう。
3.まぜないために知っておくこと
・酸性洗剤を中性洗剤に変える。
トイレ洗剤を酸性から中性に変えることで危険性を減らすことができます。
・酸性系薬剤と塩素系薬剤を一緒に使わない。
もし同じ場所に使う場合は、同時に使わず、入念に水洗いをした後に使用する。
・酸性系薬剤と塩素系薬剤の保管場所を分ける。
もちろん子供などの手の届かない場所で保管します。
・使用後は薬剤容器を拭きあげる。
容器外面に垂れてしまった薬剤同士が化学反応する場合があります。
・薬剤容器の中身を移し替えない。
中身がわからなくなったり、容器自体と化学反応を起こしてしまうことがあります。
4.意外と危ない容器移し替え
平成24年10月に東京消防庁管内で、アルミニウム製の飲料用容器に業務用洗剤を入れたことにより缶が破裂し、複数の受傷者がでる事故が発生しました。この事故は、勤務先で使用していた業務用洗剤(アルカリ性)をコーヒー缶(アルミニウム製)に移し蓋をして持ち帰る途中で、洗剤の成分とアルミニウムが化学反応を起こし、発生した水素ガスが密封された缶の中に溜まり、缶の内圧が高まり破裂したものです。この事故は当時ビルメンテナンス業界で、重大な事故事例として取り上げられました。私自身もアルカリ性の洗剤をアルミニウム製の容器に移し替える危険性を知りませんでしたし、当然従業員へも指導しておりませんでした。いつ、どこで発生してもおかしくない事故事例だったのです。それ以外にも容器移し替えによる事故事例をいくつか紹介します。
事例1
買い物でレジに並んでいたところ、隣の女性客が持っていた紙袋の中の洗剤入りのアルミ缶が破裂し、飛び散った洗剤が目に入り受傷した。【58歳女性・眼球異物・軽症】
事例2
飲食店で、飲み残しのジュースの缶(アルミニウム製)に清掃時に使用したアルカリ性洗剤が入り、気が付かずにそのまま蓋を閉め屋外に捨てた。その後、屋外に捨てた容器が破裂し、その場を通行中の家族に洗剤がかかり受傷したもの。【36歳女性、7歳男児・化学熱傷・軽症】
5.危険な移し替えの組み合わせ例
容器の材質 | 洗剤 | 結果 |
---|---|---|
アルミニウム | アルカリ性洗剤 | ✖ |
アルミニウム | 酸性洗剤 | ✖ |
スチール | 酸性洗剤 | ✖ |
洗剤は性状等を考慮し、洗剤の変質や容器の腐食などがないように、様々な安全対策に基づき専用の容器に入れ販売されています。このため、小分けや保管のために専用容器以外へ移し替えることは想定外の事故を引き起こすことがあります。
6.まとめ
世の中には様々な洗剤が存在し、日々進化しています。私たちはその恩恵を受けて生活しています。一方で化学薬品である洗剤は使い方次第では危険なものになってしまいます。今回この記事をまとめるにあたって強く感じたのは「まぜるな危険」はつまり「知らぬは危険」であるということ。まずは、普段は見過ごしてしまう洗剤容器の注意書きを読んでみましょう。そして洗剤などの製品に関する情報を集めてみましょう。正しい知識を持ち、正しく使えば、洗剤は安全に快適に、私たちの生活を豊かにしてくれるはずです。